スペシャルインタビュー

人間の言語活動の基本は4技能。大学入試は、その能力を検証できなくてはなりません。 吉田研作 氏 上智大学 特任教授 言語教育センター長

大学入試の英語は、英語教育に大きな影響を及ぼすと言われる。それもあって入試の英語は、改善が重ねられ、質を高めてきた。ところが肝心の学生の英語力は今も、期待したほどのものにはなっていない。それはなぜなのか。長く上智大学で教鞭を取り、TEAP開発の中心人物でもある吉田研作先生(現・特任教授 言語教育センター長)に、「入試の英語」のあるべき姿や、これからの日本人に必要な英語力などについてお話をうかがった。

改善されてきている大学入試。しかし1技能試験では限界も

大学入試の英語は改善を重ねた結果、質の高い、良いものになっています。ところがそれが英語教育に反映されていません。これは教育者の意識があまり変わっていないこと、入試が1技能型の試験に留まっていることが大きいと思います。

大学入試が、英語教育に大きな影響を与えることは明らかです。入試問題が和訳中心であれば、高校の授業では訳読が主になるのは当然です。しかし最近は、大学入試に使われる問題の質は非常に良くなっています。私の実感値で言えば、特にセンター試験には、難問、奇問はなく、また一文だけを抜き出して文法を問う「文法単独問題」もありません。ストレートな良問が多く、読解も、全体の文脈の中で理解する形式になっています。単に訳読ができ、単語がわかるだけでは解けない問題ですね。

にも関わらず、大多数の高校の先生の指導は、昔とあまり変わらず、一部の先進的な先生をのぞけば、昔ながらの読解中心の授業を行っているようです。ならば読解力だけは抜群かと思えば、これも心もとない。文部科学省が、国公立の高校3年生7万人に対して行った英語力調査の結果PDFでは、読解力は平均して実用英語技能検定(英検)3級程度でした。

その理由を考えると、先生方が今の入試の実際をよく知らないまま指導しているからのように見え受けられます。そして、そうなってしまうのは、現行の大学入試が、ほぼ1技能試験であることが大きい。改善された良い試験であっても、基本的に1技能だけとなると、相変わらずの読解プラス文法、語彙に偏った指導になりやすいわけです。

聞く、話す、読む、書くという4技能は人間の言語活動の基本

4技能によって人間は豊かな言語活動をしています。
特に現代社会に生きる私たちは、すべての技能を十分に育てることで、
豊かな、成熟したコミュニケーションを行うことができます。

人間の言語活動の基本となるのは、「聞く」と「話す」。文字のない社会ではこの二つだけです。しかし現代のほとんどの社会が文字を持ち、「読む」、「書く」能力も必要になります。実際、生育する環境に文字があると、自然に言語リテラシーは向上します。

また一般に、「話す」、「書く」が能動的(active)活動で、「聞く」、「読む」が受動的(passive)活動のように思えるかもしれませんが、実際はもっと複雑です。例えば、「読む」ことは一見、受動的活動に見えますが、実は文法を解釈、分析し、意味内容を解釈することは、能動的に考えなくてはできません。なぜなら言葉は、文脈なくして意味を決定できないからです。また発話を機械的に繰り返すパターン・プラクティスは能動的に見えて、脳の言語理解中枢(ウェルニッケ中枢)を使っていないという研究もあります。

人間同士が話すには、相手の言葉を聞かなければなりません。話していてわからないことが出てくれば質問し、それを理解したうえで、話をすることになります。情報が足りなければ読むという行為も必要になるでしょうし、場合によっては文字で情報を伝えることも出てくるでしょう。このように「話す」という1技能ですら、本当に機能させようとすれば、他の技能とのインタラクションが必要で、それによって初めてコミュニケーションが可能になるわけです。大学教育において外国語の世界に飛び込もうとするなら、4技能は必然的に必要になってくると言えるでしょう。

大切なのは、入学に向けた方針だけでなく、
入学後の学生をどう育成するかという方針

どのような人材を育成するのか。大学はその方針を意識して、4技能試験を選択してほしい。
それは大学の大きな責任だと思います。

現在、4技能試験にはいくつもの種類があり、それぞれ特色があります。ですから大学が4技能試験を導入する場合、どの試験を選ぶべきか迷うこともあるでしょう。そのとき考えなければならないのは、その大学がどのような学生がほしいのか、また、どのような人材を育て、世に送り出したいのか、という方針(ポリシー)だと思います。

私が日本英語検定協会と共にTEAPを開発したとき、常に意識したのは、入試を大学での英語教育へどうつなぐのか、でした。大学はアドミッション・ポリシー(入学者受入方針)を掲げます。しかし、入試はそれに合わせるだけでは不十分で、入学後のカリキュラム・ポリシーなどの育成方針と整合性を持たせることも必要です。つまり、入学後の学生にどのような教育をするのかを明確にし、「だからこそこの入試がある」と示すことが大切なのです。これは大学が負う重要な責任でもあります。ただ実際に、それができている大学はまだ一部に留まっていると思います。

一方、TEAPを開発をする中で、言語的な側面で考えたことが二つあります。一つは日本がEFL(English as a Foreign Language)環境であること。英語に触れることが圧倒的に少ないので、基礎知識を試す問題は必要だと考えました。日本で開発された他の多くの4技能試験でもこの点は共通していると思います。

もう一つは、コミュニカティブな試験にすること。そのためにクリティカル・シンキング(批判的思考)を促すものでなければなりません。

日常会話能力(BICS/Basic Interpersonal Communication Skills)は、大切なコミュニケーション能力ではあります。しかしこれだけでは、中学・高校ではよいとしても、大学での学び、研究にふさわしいとは言えません。大学生ならば、他者の意見を批評する、自分の意見、論理を展開するといった「認知的能力」が不可欠です。従ってTEAPにも、認知的負荷を与える問題を入れるようにしました。

このように大学入試の場合は、4技能プラス認知的能力を測ることが必要だと思います。これは非常に重要なポイントですが、実はほとんど知られていません。現に、実用英語技能検定(英検)のように20数%もの問題が認知的負荷のかかる問いになっている試験がある一方、認知的負荷があまりかからないタイプの4技能試験も存在します。

職業の盛衰に左右されない、「普通の英語」を使えることが重要

これからの日本人には、身の回りのことだけでなく、自分の意見を言える英語力が必要です。
そして、現在の職業の多くが消滅すると言われる将来においても、
基本となる英語力の必要性は変わらないと思います。

これからの平均的な日本人にとって必要な英語力を考えてみますと、最もわかりやすいのはCEFRのBレベル(*1)ですね。Aレベルは日常的な内容や個人的な事項について話せる程度の能力ですが、これは中学生の段階で卒業したいところです。

Bレベルはそこから一歩出て、より抽象的に、社会問題や時事についての意見を言える段階です。Cレベルほど高度な表現ができなくてもよいので、「◯◯についてどう思いますか」と問われて答えることができるレベル。このくらいの力がないと、いつまでたっても日本人の英語力は国際社会において挨拶レベルに留まってしまいます。もちろんそれには国語(日本語)できちんと自分の意見が言えることも必要。これは国が今、「言語力の向上」というテーマで取り組んでいることです。

ではさらに将来を見すえたとき、必要な英語力は変わるでしょうか。最近、しばしば言われるのは、現在の職業の多くが消滅し、今の子どもたちは未知の職業に就くようになるだろう(*2)ということ。そのとき、必要な英語力はどうなるのでしょうか。

結論から言えば、必要になる基本的な英語力は変わらないと思います。職業には独自の用語や表現があり、新しい職業が登場すれば、それに伴ったものが出てくるはずです。これは後から身につければよい。大切なのは、特定の職業分野で完結しない状況の中で使われる、「普通の英語」(Plain English)の力を備えておくことです。

この点で私が考えさせられたのは、私が会長を務める航空英語能力証明審査会(国土交通省)での経験です。航空機のパイロットや管制官は、業務に必要な英語の能力を証明しなければならないことが国際的に定められています。この委員会はその判定、証明を行う機関です。

この仕事に関わってわかったのは、ESP(English for Specific Purposes)(*3)ができるのに、普通の英語がおぼつかないパイロットや管制官がいることです。しかし、これでは緊急時に搭乗客への指示を出したり、適切な行動を取って安心させたりすることができません。仲間内だけの情報のやりとりならば、専門用語とフォーマット化された会話ですむかもしれませんが、緊急時は、誰にでもわかりやすく、的確な表現ができなくてはならないので、航空英語能力証明審査会はそのような Plain Englishの能力の有無を審査する委員会なのです。

これは、航空業界に限らないはずです。とすれば、どれほど職業世界が変わろうと、ESPだけでは不十分で、職業と一般の人々の仲立ちをする普通の英語が必要になります。そして、この普通の英語力とは、4技能をバランス良く育てたものであることは言うまでもないでしょう。

(*1)CEFRのレベルはA1〜C2の6段階である。BレベルにはB1とB2があり、英検で対照すると、B1がおおむね2級、B2が準1級程度となる。

(*2)デューク大学の研究者キャシー・デビッドソンは、2011年8月にニューヨーク・タイムズのインタビューに答えて、「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学を卒業するとき、現在は存在しない職業に就くだろう」と予測し、反響を呼んだ。

(*3)学問的背景や職業などの固有のニーズを持ち、他と区別された同質性のある集団が、その集団の内部、あるいは外部と、明確な目的を持って使用する英語のこと。しばしばEGP(English for General Purposes)と対比して定義される。

吉田研作 氏 略歴

1948年京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。
同大学大学院言語学専攻修士課程修了。ミシガン大学大学院博士課程修了。
現在、上智大学 特任教授、言語教育研究センター長を務める。
英語教育、バイリンガリズム、異文化間コミュニケーション教育の第一人者。
文部科学省などの外国語教育に関する各委員会にも携わり、英語が使える日本人の育成に関する研究、活動を行っている。

【写真】吉田研作 氏
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