スペシャルインタビュー

必要なのは、「世界の人々と人間関係を築くための英語力」です。三島良直 氏 東京工業大学 学長

理工系大学として日本の最高峰に位置する東京工業大学(東工大)。大学間競争が激化する中で、世界から研究者や学生が集まる大学を目標に、研究はもちろん、教育、制度、環境などについて世界のトップクラスをめざす。そうした大学改革に取り組む学長の三島良直氏が、国際化と英語教育について語る。

大学の国際化は、カリキュラムなど制度面から進めなくてはなりません

東工大は「2030年までに世界のトッブ10に入るリサーチユニバーシティになる」という長期目標を掲げています。そのために今、大学改革を推進中です。改革において国際化は欠かせない要素の一つです。

大学の大きな役割には「教育」と「研究」があり、国際化はこの両方に関係してきます。まず「教育」についてお話しすると、国際化には、制度的な課題を解決しなければなりません。

端的な例は単位の認定です。東工大は、MIT(マサチューセッツ工科大学)、Caltech(カリフォルニア工科大学)など、海外のトップクラスの大学と協定を結び、数多くの学生や研究者が交流しています。

しかし、東工大の学生が、MITやCaltechで学んで得た単位を、東工大は認めますが、逆にMITやCaltechは、自分の大学の学生が東工大で取得した単位を認めません。つまり、単位互換が実現できていません。

その大きな原因は、世界のトップクラスの大学は、講義やカリキュラムの内容や目的、学生の達成度への評価、評価基準などを明確にしているのに対し、現在の日本の大学では教員が一方的に講義をするスタイルになりがちで、評価の基準などが明確に示されていないことです。国際化は、こうした部分から変えていかなくてはなりません。

世界標準の制度へと改革できて初めて、世界のトップクラスの大学と対等な関係になることができます。そうすれば海外から東工大へ留学したいという学生も増えるでしょう。東工大の学生数はおよそ10,000人で、その内、外国人留学生は約1,200人。国内の大学では多い方ですが、欧米の大学と比べればまだまだ。海外からの学生、研究者をさらに増やしたいと考えています。

研究面で言えば、海外の研究者と共に研究する、共同で論文を発表するといったことが大学の評価にもつながりますから、そのためにも英語力は欠かせないと言えます。

大切なのは、専門分野について語る英語力と人間関係を築く英語力です

学生には、英語で、専門分野についてきちんと話す、意見を述べる、外国人学生や研究者と親密になれる、多国籍チームで仕事ができるといった能力を身に付けてもらいたいと思っています。

このような英語力は、厳密に言えば二種類あります。

一つは、研究について発表したり、海外の研究者と議論したりするための英語力。これについては、私はあまり心配していません。共通の研究対象があり、内容も限定されているからです。

もう一つは、人間同士の信頼関係を築くときに必要な英語力。より切実に必要なのはこちらです。異なる文化や習慣を持つ人に自分の個性を見せ、意見を語り、人間関係を作ることが日本人は非常に苦手です。

これは日本が島国であることが大きな原因だと思います。以心伝心は日本人の理想かも知れませんが、「あの人は専門についてはよく話すが、それ以外は何を考えているのかわからない」というのでは世界の多様な人々の信頼は得られません。

グローバル化が進んだ現在、国際共同研究チームなどを作ることが増えています。チームを機能させ、ときにはリーダーとして力を発揮するには、忌憚のない意見を言い合い、自分のパーソナリティを知ってもらわなくてはなりません。求められるのは、そうしたときに役立つ英語力です。

それが4技能のバランスの良い英語力なのですが、これを大学に入ってから鍛えようとしても非常に難しい。4技能の訓練は、ある程度早い時期から行うことが必要です。

留学は、人間的成長につながり、自己再発見の機会になります

私は、学生にはぜひ留学してほしいと思っています。
学部でも、大学院でも、どの時点であっても、留学は非常にプラスになります。
それは私自身の経験からも明らかです。

海外の大学や大学院で学ぶ意義は、自分の研究分野についての新しい知識や手法を得ること以上に、人間的に成長することが大きいと思います。

日本とはまったく違う社会・文化の中に身を置くと、日本で同じ環境に長くいると見えなかったものが、見えてきます。異なる価値観や視野から物事を考える経験もできます。海外に出て初めて日本のことがわかるようになるという効果もあります。

また、外国人の友人ができ、日本人とは異なる、人間や家族についての考え方に触れることも貴重です。つまり、さまざまな意味で、留学は自己再発見となり、人間的成長を促す経験になります。

私は大学院で修士号を取得した後、アメリカのカリフォルニア大学バークレイ校の博士課程に進みました。

日本で修士課程を終える頃、人と同じようなことをしていてはダメだ、という危機感があり、何か人と違うことをしたい、厳しい環境に身を置かなくては、と直感的に思ったのが留学の動機でした。後になって、なぜこんな大変なことを始めてしまったのだろう、と後悔するほど勉強は厳しいものでしたが、自分で日本の外に飛び出したことは、かけがえのない経験になり、力にもなったと思います。帰国する頃には、日本に帰るのが嫌で仕方なかったのを覚えています。

東工大の学生は優秀で、就職でも恵まれています。近年はそれに甘んじて、苦労しそうなことは避け、要領よく単位を取って、就職が人生のゴールという発想の学生も増えているようです。

しかし、それでは成長はありません。自分の世界も広がりません。私は、学生に自分が何をしたいかを真剣に考えてほしいし、積極的にいろいろな経験をして、今の自分に付加価値を与えてほしいと思っています。そのためにも留学を経験し、英語力を高めることは重要なのです。

国公立大学において、
入試の英語への外部資格試験の導入は、大きな潮流です

大学の国際化、留学の促進などを考えれば、入試では外部資格試験などの導入は必然でしょう。
大学自らが入試の英語試験を作る時代は徐々に終わると思います。

入試への4技能測定外部資格試験の導入に当たって、受験料、受験会場の公平性などについての議論があるようです。しかし、それは具体化における問題に過ぎません。外部資格試験導入自体を否定する理由にはならないと思います。

ただ、導入の流れを軌道に乗せるには、小学校の段階から英語教育の方法やしくみを考えることが望ましいと思います。英語の4技能を、小学生の頃から楽しみながら学ばせる方法はいろいろと考えられるでしょうし、大きな負担なく何度も資格試験にチャレンジできるしくみも必要でしょう。

将来的には、小学校、中学校、高校と各段階で資格試験のスコアについてのガイドラインがあり、生徒はそれに沿って継続的に学んでいく、そして、各大学は入学に必要なスコアを公表し、受験者がそのスコアに達していれば入試の英語については合格とする、というやり方が望ましいと思っています。大学が独自の英語入試を作成する時代は、一部の専門分野を除いて、終わりを迎えつつあるのではないでしょうか。

三島良直 氏 略歴

1973年東京工業大学工学部卒業。
1975年同大学 大学院理工学研究科修士課程修了。1979年カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了。
同大学バークレー校材料科学専攻アシスタントリサーチエンジニア、東京工業大学精密工学研究所助教授、同教授、同大学大学院総合理工学研究科長(兼務)、同大学フロンティア研究機構長(兼務)、理事・副学長(教育・国際担当)などを経て、2012年10月 東京工業大学 学長(現在に至る)。武蔵高等学校出身。

【写真】三島良直 氏
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