スーパーグローバル大学/ハイスクール導入事例

【写真】熊本県立済々黌高等学校

スーパーグローバルハイスクール(SGH)のさらなる推進と
新たな進路指導の実現に向け校内組織を再編

熊本県立済々黌(せいせいこう)高等学校(以下済々黌高校)は開校以来130年以上にわたり、国際社会を視野に入れた教育活動を行っています。生徒の視野を海外に広げ、グローバル社会で求められる力を伸ばすために、環境をテーマにした課題研究などに工夫を重ねているほか、進路指導改革にも取り組み、次代に求められる進路指導を追究するための部署を進路指導部に新設しました。

生徒の目を世界と地元に向ける活動に、2014年度入学生から取り組み始めました

済々黌高校のSGHプロジェクトでは、課題研究と英語4技能指導の2つを柱とし、生徒の問題解決能力やコミュニケーション能力の育成に力を入れています。
生徒の国際問題への関心と地元に対する理解をともに深めようと、課題研究のテーマは環境にしました。

当校は、明治初期の開校当初から正課の授業に中国語を取り入れるなど、国際社会を視野に入れた教育活動を行っています。グローバル・リーダーを育成する取り組みに適すると考え、SGHに申請しました。

SGHプロジェクトの柱となる課題研究のテーマは、環境にしました。地球温暖化や核廃棄物処理など、世界的に議論されているほか、熊本県とのかかわりも深いからです。熊本市では飲用水を豊富な地下水でまかなっていますし、県内にはかつて深刻な公害病を経験した水俣市があります。環境をテーマに設定すれば、生徒の国際問題への関心も地元に対する理解も深められると期待したのです。

そして、環境に関する課題研究に取り組む「リサーチプロジェクト」、英語の4技能(聞く・話す・読む・書く)を高めることを主目的とする「コミュニケーションプロジェクト」という2つの活動を軸に、2014年度入学生から取り組み始めました。

ただ、2014年度はSGHの指定を受ける前に教育課程が決まっており、変更が難しかったため、「総合的な学習の時間」などに活動を行いました。2015年度からはSGクラスを設け、その正課授業として「リサーチプロジェクト」「コミュニケーションプロジェクト」を位置づけ、いずれも週2コマを充てるようになりました。

新しい進路指導を行うためにグローバルキャリア課を新設しました

論理的思考力やコミュニケーション能力などは、今後、大学教育や大学入試でもさらに重視されるようになると考えられます。
そこで、進路指導改革とSGHのさらなる活動推進とを担う部署「グローバルキャリア課」を新設し、生徒だけでなく教師の意識も変えるための取り組みを始めました。

【写真】坂井誠 教頭

坂井誠 教頭

近年、大学教育も大学入試も、大きく変わろうとしています。大学では論理的思考力やコミュニケーション能力の育成がさらに重視され、大学入試でも学力に加えて主体性や協働性などを評価しようとするなど、いわば国際的に重視される総合力が求められるようになっています。海外の大学に進学・留学する重要性もますます高まるでしょう。生徒が進もうとする道が多様化してきているため、進路指導の在り方も改める必要があると、当校では考えました。

また、論理的思考力や問題解決力というように、これからの大学進学に求められる力と、SGHプロジェクトで伸ばそうとしている力とは共通しています。

そこで、SGHの取り組みが本格化する2015年度に進路指導部を改組し、SGHのさらなる活動推進と新たな進路指導とを担う部署、グローバルキャリア課を新設しました。

海外を視野に入れた進路指導のノウハウを構築し、学校全体で共有することも、同課の重要な役割です。海外進学に興味のある生徒に対して、取得すべき資格や準備すべき書類など、海外進学に何が求められるかをどの教師もアドバイスできるように、海外進学に関する内容を教員研修に盛り込もうとしています。

どの生徒も海外の大学への進学や留学を自分の選択肢の1つと考えられるように、情報発信にも力を入れています。例えば、2014年度入学生(現2年生)全員を対象に、海外進学説明会を企画し、外部講師から国内大学と海外大学とを併願できることや出願時期などを説明しました。
また、短期留学や海外でのボランティア活動などの募集があれば、同課の教師が積極的に告知するようになりました。活動の内容や意義、参加資格などをしっかり伝え、検討してほしいと呼びかけています。

生徒は海外留学生との交流により、探究したいテーマを見つけやすくなりました

環境問題は政治や経済など多様な分野にかかわります。ともすれば、生徒は自分の関心の中心がどこにあるのかを見失うことが考えられます。
そこで、生徒が本当に関心のある課題について研究できるように、海外留学生と環境問題について話し合う機会を設けました。

【写真】鶴濱正悟 先生

鶴濱正悟 先生

現2年生である2014年度入学生の取り組みで説明します。
1年次には、土曜日の特別講座を「コミュニケーションプロジェクト」に充て、学外から招いた研究者や大学のディベート部の学生の指導のもと、英語でのディベートを月1~2回継続的に行い、希望者約50人が参加しました。

また、文理選択後の11月には「リサーチプロジェクト」として、文系志望者から募った希望者41人が「総合的な学習の時間」を用いて環境に関するグループ研究を始め、2月にその研究の成果を1年生全員に対して英語で発表しました。

グループ及び研究テーマの決定に関しては、41人それぞれが挙げた興味のある環境問題をKJ法で分類して、関心が似ている者同士4~5人が集まるように8グループをつくり、各グループが研究テーマを決めました。絶滅危惧種、開発と自然保護、代替エネルギーというように、いずれも多彩な、そしてスケールの大きなテーマです。

政治や経済、科学など、多くの分野にかかわる環境問題は、多様な研究ができる半面、自分たちの関心の中心がどこにあるのかに気づきにくくなることが考えられます。
そこで、テーマ設定の事前学習として、SGHでの連携先である立命館アジア太平洋大(APU)のワークショップに参加し、海外からの留学生と環境問題について英語で話し合う機会をつくりました。価値観や文化的な背景が異なる人々と意見を交換することで、生徒は考えが整理しやすくなりますし、視野も広げられるため、本当に探究したいテーマを見つけることにつながったと考えられます。

デザイン発表の事前指導では学外から講師を招き、英語によるプレゼンテーションの練習を行いました。真剣に発表資料を作成し、英語でどのように表現するかを考える姿が見られました。発表当日にどのグループもしっかりとプレゼンテーションできたのは、そのためでしょう。また、堂々と英語で発表する友だちの姿を目の当たりにしたことで、課題研究に取り組んでいない生徒は刺激を受け、海外に興味を持つきっかけになったようです。

グループ研究での学びを個人研究に生かせるように指導しています

2014年度入学生は2年次になると、1学期にグループ研究を完成させ、2学期から個人研究に取り組むようになります。10月には、ドイツでの研修も行います。
また、英語の4技能を伸ばそうと、ディベートや話し合い活動などにも取り組みます。

2年次になると、1年次に課題研究を始めた41人を集め、SGクラスを1つ編成しました。研究は、2015年度に新設された「リサーチプロジェクト」の授業で継続して行い、1学期中に各グループが研究内容を英語の論文にまとめます。
2学期には、各自が新たに決めたテーマについて個人研究に取り組んで英語の論文を作成し、12月に全校生徒を集めて催す成果発表会で1人ひとりが自分の研究内容を英語で紹介します。
情報を収集・分析し、論理的に結論を導くというように、グループ研究では個人研究に生かせる学びがいくつも得られるでしょう。2つの研究が別々に存在するのではなく一連のものであることは、1年次にグループ研究を始めた頃から、指導する先生方が繰り返し伝えています。

さらに10月には、個人研究の参考になるように、環境保護政策に熱心なドイツでの研修も行います。参加は任意であり、費用の一部を負担する必要があるにもかかわらず、8割以上の生徒が申し込みました。
自分の研究に役立ちそうだと考えれば手を挙げ、そうでなければ見送るというように、どの生徒も明確な目的意識によって参加するかどうかを判断していました。何のための研修か、それが自分にとってどのような価値があるかを主体的に判断できるようになっていることが感じられます。

一方、「コミュニケーションプロジェクト」の授業では、1年次の土曜講座の延長として、1学期に英語のディベートに取り組みます。
「リサーチプロジェクト」と関連させようと、ディベートの論題には環境問題を選んでいます。英語の教科担当が指導するのが基本だが、ディベートの勝敗の判定(ジャッジ)は、インターネットによるスカイプを用いて外部講師にもサポートしてもらいます。
2学期以降は英字新聞や英文雑誌の記事を読み、それについて英語で話し合う活動を行います。ここでも、環境に関連する記事はもちろん、日本の歴史や文化などに関する記事も積極的に選ぶなど、「リサーチプロジェクト」とのかかわりが深まるように工夫します。ドイツ研修で尋ねられた時に、生徒が自分の感じる自国の長所や短所を、相手に伝わるようにしっかり表現してほしいと考えています。

地元にも目を向けてほしいと、熊本の環境問題について情報を生徒に発信しています

2015年度入学生は、1年次にグループ、2年次に個人で課題研究を行います。
グループ研究の指導では、2014年度の研究テーマが国際色豊かになったことを踏まえ、2015年度は地元の問題にも目を向けられるように、熊本の環境問題の情報に生徒が多く触れる機会をつくっています。

現1年生である2015年度入学生に対しては、SGクラスを2つ編成し、取り組みをさらに発展させています。

「リサーチプロジェクト」では、グループ研究を英語論文にまとめ、12月の成果発表会で発表できるように、段階的に取り組みを進めています。
まず、年間計画やレポートの書き方などをしっかり説明してから、環境問題の学習に力を入れました。熊本県内の環境改善に取り組むNPO法人の職員に講義をしてもらったほか、興味がある環境問題についての個人レポートをすでに3回課しています。1人ひとりの学習意欲を伸ばそうと、どのレポートも担任が読み、コメントを書いて生徒に返却しました。

次に、6月からは、グループ分けや各グループのテーマ設定に向けた活動に重点を移しています。
例えば、2014年度入学生に対しても行ったAPUでのワークショップを、時期を大幅に早めた7月に実施したり、水俣市で行われる水俣病についての体験学習に参加したりするといった具合です。2014年度入学生のグループ研究のテーマは国際色が豊かになったことを踏まえ、国際的なテーマに加えて地元に焦点を当てたテーマも設定できるように、2015年度入学生には、熊本県の環境問題の情報にも多く触れさせています。

6月中に2014年度と同じくKJ法によって18~19のグループに分け、夏休みまでに各グループがテーマとグループ内での役割分担を決めます。

9月からは論文作成に入るため、夏休み中も自主的に研究を続けるように事前に呼び掛けるほか、夏休み中に登校日を2日間程設け、担任が研究の進捗を確認します。
論文は日本語で書いてから英訳するため、日本語論文作成では学年団の先生、英語論文作成では英語科の先生に協力を求め、1人に複数グループを指導してもらいます。また、前出のNPO法人の職員の方にも論文指導を依頼します。

一方、「コミュニケーションプロジェクト」では、1学期に、文書作成ソフトや表計算ソフトの使い方や、インターネット使用のモラルなどについて、情報の先生が指導します。「リサーチプロジェクト」での課題研究に必要なためです。
2学期からは英語の学習に注力し、ディベートに取り組みます。

口頭での意思疎通が自在にできるように、生徒のスピーキング力の育成に注力

「コミュニケーションプロジェクト」以外の取り組みとして、2015年度入学生では、「総合的な学習の時間」に、英語による表現活動や小論文作成、話し合いなどを行い、英語4技能を使った思考力、表現力の育成に注力しています。また、GTEC for STUDENTSのスピーキングテストも導入しています。

SGクラスでは、「コミュニケーションプロジェクト」のほかにも生徒の英語力を伸ばすための工夫が見られます。
例えば、2015年度入学生(現1年生)のSGクラスにおける英語授業では、スピーキング力を伸ばすため、授業の冒頭で生徒に英語で1~2分程度の自己紹介や、興味のある雑誌記事について英語で2分程度のプレゼンテーションを行わせています。
さらに、発話することを定着させようと、教科書の音読を重視し、本文一斉音読、本文の一部を消した文の音読、シャドーイングといったさまざまな形で取り組ませています。その後、パラグラフごとに内容を理解し、最終的には、重要なフレーズを用いたライティング活動を行います。

また、2015年度入学生では、どのクラスでも「総合的な学習の時間」に、英語による表現活動や小論文作成、話し合いなどを行っています。それは、グローバル社会を生きるうえで欠かせない、コミュニケーション能力や問題解決力、広い視野などを、生徒全員にしっかり身につけさせたいと考えているためです。
2015年度第1回は「知識を身につけるために、読書は手助けとなるか」というテーマで「Yes」or「No」の意見と、それに伴う理由を作らせるような内容で行いました。今後は、SGクラスの課題研究にかかわりの深いテーマで表現活動などを行うことも検討しています。

GTEC for STUDENTSのスピーキングテストも導入しました。状況に応じて、話の流れを組みたてる力、言葉・単語の選び方も含めた発話力の測定を期待しています。

会話は日常的に最もよく用いるコミュニケーションの手段ですから、自在にできるように、生徒が英語を話す機会をなるべく多くつくりたいと考えています

来たる大学入試改革に向けても、英語4技能を使う力だけでなく、英語4技能を使って思考力、表現力を育成していくことが重要と捉えています。そのため、英語の授業だけでなく、「総合的な学習の時間」も用いて上述のような取り組みを行っています。

広い視野から自分の将来を考えられる生徒が増えています

SGHの活動により、進路を主体的に考える生徒が増えています。入学後に留学したいと話す生徒も多く、海外への関心の高まりもうかがえます。
今後は、SGクラス以外の生徒に対しても海外進学情報の発信に力を入れ、全員の視野を世界に広げていきたいと考えています。

SGクラスの生徒は、「リサーチプロジェクト」にも「コミュニケーションプロジェクト」にも熱心に取り組んでいます。
当校は、SGHの活動が将来にどうつながるかを折に触れて示しています。例えば、課題研究とは、問題を見つけて解決策を考え他者に分かるように示す活動であり、大学に進学すればきっと取り組むことになると繰り返し伝え、「大学での学びを高校時代に先取りしているのだ」と訴えるといった具合です。さらに、生徒は連携大とのワークショップなどでの大学生との交流を通して、目の前の取り組みが未来の自分にどう生きるかがイメージできるでしょう。
だからこそ、どの生徒も当事者意識を持って参加できているのだと考えられます。

現2年生では、進路に対する生徒の意識にも変化が見られます。
大学入学後に留学したいと話す生徒や国際関係学部を志望する生徒が増え、海外への関心の高まりが感じられます。
また、複数の学問分野が融合した学部を志望する生徒も目立ちます。問題を解決するためには多角的な視野が必要であることを、課題研究などを通して学んだからこそでしょう。目的をしっかり持って大学・学部を決めようとする意欲が感じられるようになりました。

当校が目指すのは生徒全員の視野を世界に広げることですから、今後はSGクラスを基点として他クラスにも、海外進学・留学の情報をより積極的に発信していきます。海外の進学先に対する先生方の意識も、さらに高めていこうとしています。
生徒1人ひとりが進路の選択肢として海外の大学を検討し、自分に合っていると思えば足を踏み出せるように、またそんな生徒の背中をどの先生も押せるようにする。この目標に向かって、取り組みをさらに発展させていきたいと考えています。

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